ぼくの
母はお
料理ずきで、
台所に
立つのはいいけれど、
「なんだべ、なんだべ」といいながら、
指を
切ったり、だいこんおろしといっしょに、かわをすりむいたり、おこめをいれないで
水だけのごはんをたこうとしたり、ゆうべもなんかものすごく
時間をかけて
「おいものにっころがしよ」といって
出されたのは、ちくわのにっころがしだった。
父は「
母さんの
料理は
日本一だ」といって、なんでもおいしそうにたべる。
「つくりがいがあるわ」
母は、
目を
細めて、おかわりするのを
待っている。
父は、よせばいいのに、かならずおかわりするんだ。
「なんだべ、、なんだべ」と、ぼくは、ふたりをみて、あきれている。
今日もはりきって
台所に
立った
母が、こういった。
「
母さんは
美人じゃないわ。
生まれてすぐ、
美人じゃないと
思って、がんばっているのよ」
タマネギをきざみながら、
涙をポロポロこぼしている
母をみると、「
人間は
努力だけではだめなんだ。あるていどの
才能は
必要なんだ」と、いおうとしても、いえなくなってしまう。
「
父さんは、
本当に
母さんの
料理がおいしいと
思っているの」
ある
日、
父にきくと、しみじみとした
口調で、こういった。
「まずいね。だけど、まずいのも、あれほどってっていしてまずいと、これでいいのだ、これが
母さんの
心なんだと、
思ってしまう。そういうことじゃないだろうか。
家庭の
幸福というのは」
ぼくは、
母のまねをして、いってみる。
人生って、「なんだべ、なんだべ」
(昭和六十一年十月 岩手日報夕刊に掲載)